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熱中症と脳の関係 生卵はゆで卵に戻らない 脳も同じ?

  • 執筆者の写真: 浅川貴介 |  浅川クリニック副院長 | 総合内科専門医・腎臓専門医・医学博士
    浅川貴介 | 浅川クリニック副院長 | 総合内科専門医・腎臓専門医・医学博士
  • 8月6日
  • 読了時間: 4分

更新日:3 日前

夏の暑さが厳しくなるにつれ、熱中症による救急搬送が増加しています。特に注意すべきなのが、「脳」への影響です。今回の浅川クリニックのブログでは「生卵がゆで卵になったら元に戻らない」というたとえを使って、熱中症と脳に与える深刻なダメージについて、医学的な視点からわかりやすく解説します。


熱中症と脳の関係 ゆでたまご

生卵はなぜゆで卵に戻らない?

タンパク質の不可逆変化


生卵を加熱すると白身や黄身が固まり、ゆで卵になります。これはタンパク質の熱変性によるもので、構造が変化し「凝固」する現象です。一度変性したタンパク質は元の状態に戻せません。この「不可逆変化」という性質は、実は人間の脳に熱中症で起こる障害にも通じています。




熱中症と脳細胞

脂肪主体の脳は高温に弱い


脳の約60%は脂質(脂肪)で構成されており、神経細胞の膜や構造はこの脂質によって守られています。しかしこの脂質は熱にとても弱く、高体温状態が続くと「融解壊死(ゆうかいえし)」と呼ばれる不可逆な細胞の破壊が起こります。

つまり、熱中症で脳が加熱されすぎると、脂質が溶け出し、脳細胞そのものが壊れてしまうのです。


  • 卵はタンパク質主体 → 熱で「凝固」する

  • 脳は脂質主体 → 熱で「融解壊死」する


いずれも「元に戻せない」不可逆な変化であり、熱中症の怖さを示す重要なポイントです。


脳神経細胞

脱水症状は「脳の酸素不足」も招く


熱中症では、大量の汗や発汗抑制によって重度の脱水が引き起こされます。脱水が進行すると、血液の粘度が上がり、全身の血流が低下します。脳はとくに酸素を多く必要とする臓器のため、血流低下に非常に弱く、脳への酸素供給が不足する「低酸素脳症」を引き起こすこともあります。低酸素脳症は、短時間であっても意識障害・けいれん・脳浮腫などを引き起こし、後遺症を残すこともあります。




一度壊れた脳細胞は戻らない


熱中症が重症化し、体温が40〜41℃に達した状態や、脱水による脳血流の低下が続いた状態では、脳の神経細胞は数分〜十数分で不可逆的な損傷を受けます。

こうして起こった神経細胞の壊死や機能障害は、回復が難しく、記憶障害や認知機能の低下などの後遺症として残ることもあります。




とくに注意すべき人たち


  • 高齢者:暑さを感じにくく、のどの渇きにも気づきにくい

  • 子ども:体温調整機能が未熟で、急激な体温上昇に弱い

  • 基礎疾患のある方:自律神経の働きが低下している場合があり、発汗がうまくできないことも


こうした方々は、知らず知らずのうちに脳が高温にさらされ、大きなリスクを抱えている可能性があります。




熱中症から脳を守るには


喉が渇く前に水分・塩分補給を

水や、麦茶、スポーツドリンクなどが有効です。汗をかいて具合が悪い場合には経口補水液も有用です。


エアコンや扇風機を積極的に活用

「クーラーが苦手」と無理をせず、室温を下げる工夫を。


強い日差しを避ける

帽子、日傘、こまめな休憩を。


「いつもと違う」状態を見逃さない

ぼんやりしている、返事がおかしい、ふらつく、などの症状は脳に熱が及び始めているサインかもしれません。




ワンポイントアドバイス


「熱中症=高体温」だけでなく、「脱水による脳酸素不足」にも要注意。

近年の研究では、40.5℃以上の体温や急速な脱水により、脳の視床下部・海馬に不可逆な損傷が生じることが確認されています。高齢者や基礎疾患を持つ方は、わずかな脱水・発熱でも神経細胞の損傷や低酸素状態に陥りやすいことが分かってきています。

「なんとなくおかしいな」で、すぐに涼しい場所へ。数分の判断が、後遺症を防ぐカギになります。




まとめ

熱中症は「ただの脱水」ではありません。ときに脳の取り返しのつかない損傷を引き起こします。 「生卵がゆで卵に戻らない」ように、脳のダメージも元に戻せないことを忘れず、早めの予防と対応を心がけましょう。

浅川クリニック世田谷では、熱中症に関するご相談や点滴治療も受け付けています。

暑い夏を健康に乗り切るために、気になる症状があればどうぞお気軽にご相談ください。


浅川クリニック 内科・世田谷

〒154-0017 東京都世田谷区世田谷1丁目3−8


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