top of page

人間ドックの腫瘍マーカーに意味はあるのか?― 尿がん検査・画像検査との違いを医師の立場から考える ―

  • 執筆者の写真: 浅川貴介 |  浅川クリニック副院長 | 総合内科専門医・腎臓専門医・医学博士
    浅川貴介 | 浅川クリニック副院長 | 総合内科専門医・腎臓専門医・医学博士
  • 1 分前
  • 読了時間: 5分

人間ドックや会社健診で、「腫瘍マーカー」や「尿でがんを調べる検査」を勧められたことがある方は多いと思います。血液や尿だけでがんの可能性が分かるのであれば、簡単で安心だと感じるのも自然なことです。


しかし、実際の医療現場に立つ医師の視点で見ると、これらの検査は人間ドックの目的と必ずしも一致していないというのが正直なところです。腫瘍マーカーや尿検査が全く無意味というわけではなく、目的や使い方によって有用性が大きく異なる検査です。


人間ドック 腫瘍マーカー 意味

腫瘍マーカーとは何を調べる検査なのか

人間ドックでの腫瘍マーカーの意味


腫瘍マーカーとは、がんが存在するときに血液などで上昇することがある物質の総称です。ただし、ここで重要なのは「がんがあれば必ず上がるわけではない」「がんがなくても上がることがある」という点です。


多くの腫瘍マーカーは、がんがある程度進行してから上昇します。早期がんでは正常範囲にとどまることも珍しくなく、早期発見を目的とした健診では期待されるほどの発見力がないという問題があります。腫瘍マーカーはスクリーニング(早期発見)よりも経過観察(再発・治療効果)で本来の力を発揮する検査です。




なぜ腫瘍マーカーは健診で誤解を生みやすいのか


腫瘍マーカーが難しい理由の一つは、がん以外の要因でも数値が変動する点にあります。

たとえば、

  • 慢性腎臓病(CKD)や軽度の腎機能低下

  • 喫煙習慣

  • 慢性的な炎症や良性疾患

といった条件があるだけで、がんとは無関係に腫瘍マーカーが上昇することがあります。


健診の現場では、「腫瘍マーカーが少し高い」という結果をきっかけに強い不安を感じ、精密検査を受けたものの、画像検査では異常が見つからず、最終的に経過観察になるケースを少なからず経験します。結果として、安心を得るための健診が、不安を増やすきっかけになってしまうこともあるのです。




毎年測れば安心、ではない


腫瘍マーカーは、

  • 正常値だから安心

  • 少し高いからすぐにがん

と単純に判断できる検査ではありません。数値の解釈が非常に難しく、人間ドックで毎年ルーチンに行う検査としての価値は限定的と言わざるを得ません。




PSA(前立腺特異抗原)は例外的な位置づけ


腫瘍マーカーの中でも、PSAはやや例外的な存在です。PSAは自治体の前立腺がん検診としても用いられており、

  • 年齢

  • 家族歴

  • 排尿症状

などを考慮したうえで、医師と相談しながら行う検査には一定の合理性があります。ただし、これも万能ではなく、適切な説明とフォローが前提となります。




がんサバイバーのフォローは人間ドックではなく保険診療で


すでにがん治療を受けたことがある方(がんサバイバー)では、再発チェックや治療効果判定のために腫瘍マーカーを測定する意義がある場合があります。

この場合は、

  • 人間ドックや自由診療ではなく

  • 保険診療として主治医の管理下で行うことが基本

です。健診目的の腫瘍マーカーとは、明確に区別して考える必要があります。




尿がん検査はさらに評価が難しい


近年、テレビCMや広告で見かけることが増えた「尿でがんを調べる検査」についても質問を受けますが、現時点では健診としての位置づけはさらに不明確です。

  • 何のがんを、どの程度の精度で見ているのか分かりにくい

  • 陽性だった場合に次の行動がはっきりしない

  • 陰性でもがんを否定できるわけではない

現時点ではエビデンスや運用が十分に整理されているとは言えず、健診として routine に行う検査としては慎重な判断が必要です。


腹部エコー

画像検査と腫瘍マーカーの情報量はまったく違う


腫瘍マーカーや尿がん検査で得られるのは、「がんがあるかもしれない」という間接的な情報です。

一方、腹部エコーやCT、MRIなどの画像検査では、

  • 臓器の形や構造

  • 腫瘤の有無

  • 液体(腹水など)の貯留

といった情報を直接確認できます。


画像検査で得られる情報量と、血液・尿検査で得られる情報量は、正直に言って雲泥の差があります。

ただし、CTなどの検査には被曝や偶発所見(いわゆる“たまたま見つかる異常”)の問題もあるため、目的に応じた選択が重要です。




腹部エコーで分かるのは「がん」だけではない


腹部エコーの価値は、がんそのものを探すことだけではありません。

腹部エコーでは、

  • 腹水

  • 肝臓の線維化や形態変化

  • 脂肪肝・慢性肝障害

  • 胆のうポリープ

  • 腎臓や膵臓の構造異常

など、がんに至る前段階の変化や将来のリスクが見つかることも少なくありません。これらは、腫瘍マーカーや尿がん検査では拾えない情報です。




健診で大切なのは「意味のある検査」を選ぶこと


健診や人間ドックは、検査の数を増やすことが目的ではありません。大切なのは、

  • その検査で何が分かるのか

  • 異常が見つかったときに、次にどう行動できるのか

という視点です。


特に無症状の方が人間ドックを受ける場合は、腫瘍マーカーや尿がん検査を追加するよりも、腹部エコーなどの画像検査を重視した健診のほうが、現実的で納得感や意味のある選択になります。


検査選びに迷ったときは、「安心を増やす検査か、不安を増やす検査か」という視点で考えてみてください。浅川クリニックでは、その方にとって本当に意味のある健診の形を一緒に考えていきます。


浅川クリニック 内科・世田谷

〒154-0017 東京都世田谷区世田谷1丁目3−8


bottom of page