胃腸炎で「下痢止め」は飲んでいい?
- 浅川貴介 | 浅川クリニック副院長 | 総合内科専門医・腎臓専門医・医学博士

- 2025年11月21日
- 読了時間: 10分
更新日:8月24日
胃腸炎になると、急な下痢や腹痛でつらくなり、「薬で一刻も早く止めたい」と感じる方も多いと思います。
しかし、胃腸炎による下痢には、腸の中に入った病原体や毒素などを便と一緒に体外へ出そうとする意味もあります。そのため、状況によっては下痢止めを使わないほうがよい場合があります。
結論からいうと、発熱、血便、強い腹痛、食中毒が疑われる場合には、自己判断で下痢止めを飲まないことが大切です。
一方、発熱や血便のない軽い水様便であれば、成人では一時的に下痢止めを使用できる場合もあります。
今回の浅川クリニックのブログでは、胃腸炎で下痢止めを使ってよい場合、ロペミンや正露丸の違い、ビオフェルミンなどの整腸剤、抗生剤の使い方、脱水対策についてわかりやすく解説します。

胃腸炎の症状と考え方
胃腸炎では、下痢、嘔吐、吐き気、腹痛、発熱などの症状がみられます。
原因として多いのは、ノロウイルスなどによるウイルス性胃腸炎です。そのほか、細菌による食中毒、薬の副作用、暴飲暴食などによっても似た症状が起こります。
下痢は、腸に炎症が起こり、水分を十分に吸収できなくなることで生じます。病原体などを便と一緒に外へ排出しようとする反応でもあるため、感染性胃腸炎が疑われるときには、下痢を無理に止めないほうがよい場合があります。
ただし、下痢が長く続けば脱水につながります。
大切なのは、すべての下痢を我慢することではなく、下痢の原因や症状に応じて薬を使い分けることです。
胃腸炎で下痢止めを使ってもよい?
発熱や血便がなく、比較的軽い水のような下痢であれば、健康な成人では一時的に下痢止めを使用できる場合があります。
例えば、次のような状況です。
発熱がない
血便がない
強い腹痛がない
水分を十分に取れている
軽い水様便である
食中毒を強く疑う状況ではない
仕事や移動などのため一時的に症状を抑える必要がある
ただし、次のような場合は自己判断で下痢止めを使用せず、医療機関へ相談してください。
38℃以上の発熱がある
血便や粘液便が出る
黒い便が出る
強い腹痛やお腹の張りがある
生ものや加熱不足の肉などを食べたあとに発症した
嘔吐が続いて水分を取れない
海外旅行後に下痢が始まった
抗生剤を飲んだあとに激しい下痢が始まった
「下痢止めは絶対に飲んではいけない」というわけではありませんが、原因が分からないまま自己判断で使用することは避けましょう。
下痢止めの中でロペミンはどんな薬?
ロペミンは、一般名をロペラミドといいます。
腸の動きを抑えて便が通過する速度を遅くし、水分が腸で吸収される時間を長くする薬です。下痢を抑える効果が比較的強いため、「腸にブレーキをかける薬」と考えると分かりやすいでしょう。
ロペミンを使用できる場合
成人で、発熱や血便を伴わない急性の水様便では、医師の判断により使用することがあります。
過敏性腸症候群や、感染症ではない慢性的な下痢に使われることもあります。
ロペミンを避けるべき場合
次のような症状がある場合には、ロペミンを自己判断で使用しないでください。
発熱
血便
強い腹痛
お腹の強い張り
細菌性食中毒の疑い
抗生剤使用後の激しい下痢
このような下痢で腸の動きを強く抑えると、病原体や毒素の排出を妨げ、症状を悪化させる可能性があります。
なお、脱水が進んでいるときにロペミンで下痢を止めることが治療の中心になるわけではありません。脱水が疑われる場合は、経口補水液や点滴による水分・電解質の補給を優先します。
整腸剤は「止める薬」ではなく「整える薬」
ビオフェルミン、ラックビー、ミヤBMなどの整腸剤は、腸の動きを強く止める薬ではありません。
乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などを補い、乱れた腸内環境を整えることで、下痢や軟便などの改善を助けます。
下痢止めと比べて使いやすい薬ですが、飲んですぐに下痢が止まるような強い即効性はありません。
また、急性感染性胃腸炎に対する整腸剤の効果については、研究によって結果が異なります。下痢の期間を短くする可能性はありますが、すべての患者さんに明らかな効果があるとまではいえません。
整腸剤は、あくまで腸が自然に回復するのを補助する薬と考えましょう。
胃腸炎にビオフェルミンは使える?
ビオフェルミンなどの整腸剤は、胃腸炎による下痢や軟便に使用できる場合があります。
一般的な整腸剤は腸の動きを無理に止めるものではないため、ロペミンなどの下痢止めとは性質が異なります。
ただし、「ビオフェルミンを飲めば胃腸炎が治る」というわけではありません。胃腸炎の治療で最も大切なのは、水分と電解質を補い、脱水を防ぐことです。
また、ビオフェルミンという名前の製品にもいくつか種類があります。市販薬と医療用医薬品では、含まれる菌や使用目的が異なることがあるため、説明書を確認して使用してください。
抗生剤を飲むときは整腸剤の種類に注意
抗生剤は細菌を抑える薬です。ウイルス性胃腸炎には効果がないため、胃腸炎だからといって必ず処方される薬ではありません。
細菌性胃腸炎でも、抗生剤を使わずに自然に改善するケースは少なくありません。病原体によっては、抗生剤が原則として推奨されない場合もあります。
抗生剤は病原菌だけでなく、腸内の善玉菌にも影響を与えるため、服用中や服用後に下痢が起こることがあります。
抗生剤と整腸剤を併用する場合には、整腸剤の種類にも注意が必要です。
ミヤBMに含まれる酪酸菌は芽胞を作るため、抗生剤の影響を比較的受けにくいという特徴があります。また、ビオフェルミンRやラックビーRなど、商品名に「R」が付いた医療用整腸剤は、特定の抗生剤に対して耐性を持つ菌を使用しています。
ただし、すべての抗生剤に対して耐性があるわけではありません。通常のビオフェルミンとビオフェルミンRも同じ薬ではないため、抗生剤と併用する整腸剤については、医師または薬剤師に確認しましょう。

正露丸は胃腸炎に使ってもよい?
正露丸は、木クレオソートなどを主成分とする市販の胃腸薬です。
木クレオソートには、腸の過剰な動きを正常に近づけ、腸内の水分分泌と吸収を調整する作用があります。ロペミンのように腸の動きを強力に止める薬と、まったく同じ仕組みではありません。正露丸の製品説明でも、腸の過剰なぜん動運動と水分量を調整する薬とされています。
正露丸は、軟便、下痢、食あたり、水あたりなどに使用できます。
ただし、発熱、血便、強い腹痛、繰り返す嘔吐などがある場合には、正露丸だけで様子を見続けないでください。服用しても改善しない場合や、症状を繰り返す場合も受診が必要です。
また、ほかの下痢止めを重ねて飲むと、成分や作用が重複する可能性があります。複数の市販薬を一緒に使用するときは、薬剤師へ相談してください。
正露丸とビオフェルミンは併用できる?
正露丸とビオフェルミンなどの整腸剤については、一般的に重大な相互作用は知られていません。
正露丸で便の状態を調整し、整腸剤で腸内環境の回復を補助するという考え方はできます。
ただし、「併用できる」ということと、「両方飲めば早く治る」ということは別です。症状が強い場合には、市販薬を追加するより、下痢の原因を確認することが大切です。
持病の薬を服用している方、妊娠中・授乳中の方、小さなお子さんについては、医師または薬剤師へ確認してください。
過敏性腸症候群に正露丸を使ってもよい?
過敏性腸症候群では、腹痛とともに下痢や便秘を繰り返します。発熱や血便は通常みられず、ストレスや食事をきっかけに症状が出ることがあります。
正露丸によって一時的に下痢が軽くなる可能性はありますが、過敏性腸症候群そのものを治す薬ではありません。
下痢や腹痛のたびに自己判断で正露丸を飲み続けることはおすすめできません。
過敏性腸症候群に似た症状でも、炎症性腸疾患、甲状腺の病気、大腸がんなどが隠れていることがあります。症状を繰り返す場合には、医療機関で一度原因を調べましょう。
脱水予防が最も大切
胃腸炎の治療で最も大切なのは、脱水を防ぐことです。
下痢や嘔吐では、水分だけでなくナトリウムやカリウムなどの電解質も失われます。そのため、症状が強い場合は水やお茶だけでなく、OS-1などの経口補水液が適しています。
一度に大量に飲むと吐いてしまうことがあるため、少量ずつ、こまめに飲みましょう。嘔吐した場合は少し休み、スプーン1杯程度から再開します。
適している飲み物
OS-1などの経口補水液
水や白湯
カフェインの少ないお茶
塩分を含むスープや味噌汁
スポーツドリンクは、経口補水液と比べて糖分が多く、塩分が少ない製品があります。軽い症状のときの水分補給には使えますが、明らかな脱水があるときには経口補水液のほうが適しています。
スポーツドリンクを水で薄めると、糖分だけでなく必要な塩分もさらに少なくなります。そのため、「必ず薄めればよい」というものではありません。
控えたい飲み物
アルコール
濃いコーヒーやエナジードリンク
糖分の多いジュース
一度に大量の牛乳
緑茶やほうじ茶を絶対に飲んではいけないわけではありません。ただし、カフェインを含む飲み物だけに偏らないようにしましょう。
食事のとり方
胃腸炎のときに、無理に食事を取る必要はありません。まずは水分補給を優先し、吐き気が落ち着いたら、食べられるものから少量ずつ再開します。
食べやすいもの
おかゆ
うどん
食パン
バナナ
卵スープ
豆腐
やわらかく煮た野菜
一時的に控えたいもの
揚げ物など脂肪の多い食事
刺激の強い料理
生もの
アルコール
糖分の多いお菓子やジュース
胃腸炎のあとには、一時的に乳糖を消化しにくくなり、牛乳や乳製品で下痢が悪化することがあります。その場合は、症状が落ち着くまで量を減らしましょう。
ただし、必要以上に長く絶食する必要はありません。水分が取れて吐き気が落ち着いたら、消化しやすい食事から戻していきます。
こんな症状があれば早めに受診を
次のような場合には、自己判断で薬を続けず、早めに医療機関を受診してください。
水分を飲んでも吐いてしまう
尿が極端に少ない
立ち上がると強くふらつく
口の中が乾いている
血便や黒い便が出る
高熱が続く
強い腹痛やお腹の張りがある
下痢や嘔吐が数日たっても改善しない
意識がぼんやりする
抗生剤を飲んだあとに激しい下痢が起きた
乳幼児、高齢者、妊婦、腎臓病や糖尿病などの持病がある方は、脱水や重症化のリスクが高いため、早めの受診をおすすめします。
浅川クリニックでできること
浅川クリニックでは、症状や食事歴、服薬歴などを確認したうえで、必要に応じて次のような検査・治療を行います。
脱水状態の評価
血液検査
便検査
腹部超音波検査
点滴による水分・電解質補給
整腸剤や吐き気止めなどの処方
細菌感染が疑われる場合の適切な治療
症状に応じて、緊急性やほかの医療機関での精密検査が必要かどうかも判断します。
まとめ
胃腸炎による下痢は、病原体などを体外へ出そうとする反応の一つです。
発熱、血便、強い腹痛、食中毒が疑われる場合には、ロペミンなどの下痢止めを自己判断で使用しないでください。一方、健康な成人で発熱や血便のない軽い水様便であれば、一時的に使用できる場合もあります。
ビオフェルミンなどの整腸剤は、腸を無理に止める薬ではなく、腸内環境の回復を補助する薬です。正露丸もロペミンとは作用が異なりますが、症状が強い場合に市販薬だけで様子を見続けることはおすすめできません。
胃腸炎では、下痢を止めること以上に、経口補水液などで脱水を防ぐことが大切です。
判断に迷ったときや症状が強いときは、浅川クリニックへご相談ください。
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