胃腸炎で「下痢止め」は飲んでいい?
- 浅川貴介 | 浅川クリニック副院長 | 総合内科専門医・腎臓専門医・医学博士

- 18 分前
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胃腸炎になると、急な下痢や腹痛でつらくなり、「薬で一刻も早く止めたい」と感じる方も多いと思います。しかし、下痢は体が“悪いものを外へ出そうとする反応”でもあり、状況によっては下痢止めを使わない方が良い場合があります。
ここでは、下痢止めや整腸剤、抗生剤の使い方、脱水対策について、浅川クリニックの視点からわかりやすくお伝えします。

胃腸炎の症状と考え方
胃腸炎では、下痢や嘔吐、発熱、腹痛などがみられることが多く、特に下痢は「悪いものを体外へ出すための生理的な反応」です。そのため、症状の状況によっては、あえて下痢を止めない方が早く回復することもあります。
胃腸炎で下痢止めを使うべきかどうか
下痢止めを使ってよい状況は、症状が軽く、発熱がなく、外出や仕事がどうしても必要な場合などに限られます。水分がしっかり取れていて、食中毒のリスクが低い場合は、一時的に使用しても問題ないことがあります。
一方で、強い腹痛や、38℃以上の発熱、血便、黒い便が出る場合、生ものや牡蠣・卵などを食べて食中毒が疑われる場合、嘔吐が続いて水分が取れない場合などは、下痢を無理に止めるとかえって症状が悪化する恐れがあります。このような時には自己判断で下痢止めを使わず、早めの受診が望ましいです。
下痢止めの中でロペミンの位置づけ
腸の動きを強力に抑えて便の通過速度を遅らせる「腸のブレーキ薬」です。急ぎで下痢を止めたい時に一定の効果があります。
✔ 使用が向いているケース
仕事・外出・移動が必須
発熱なし
IBS(過敏性腸症候群)の下痢型など慢性のゆるい便
✔ 注意すべき点
強力に腸を止めるため、
発熱
血便
激痛
食中毒疑いでは使用しません。
✔ 医師の判断で使うケースもある
脱水が強く懸念される場合には、医師の判断であえて使用することがあります。例えば、高齢の方で下痢が止まらず水分補給が追いつかないケースでは、まず下痢を一時的に抑え、脱水を防ぐことを優先するためです。つまり「自分の判断では控えた方がよい薬だが、医師が状況を見て必要と判断することもある」と理解しておくのが適切です。
整腸剤は“止める薬”ではなく“整える薬”
ビオフェルミン、ラックビー、ミヤBM などの整腸剤は、下痢を無理に止める薬ではなく、腸の善玉菌を補って環境を整える薬です。腸の炎症を穏やかに整え、下痢や軟便を自然に回復させる働きがあります。
胃腸炎の多くの場面で使いやすく、体に優しい薬ですが、即効性は強くありません。下痢を止めるのではなく、「腸をゆっくり元の状態に戻す手助け」をしてくれる薬と考えると良いでしょう。
✔ 主な作用
善玉菌を補い腸内フローラ改善
腸の炎症を整える
軟便・下痢の自然回復を助ける
抗生剤による下痢を予防する
抗生剤を飲むときは「整腸剤の種類」に注意
抗生剤は、悪い菌を殺すだけでなく、腸内の善玉菌まで一緒に殺してしまうことがあります。そのため、抗生剤と整腸剤を併用する場合、どの整腸剤を選ぶかがとても重要です。
ミヤBMに含まれる酪酸菌や、一部のビフィズス菌製剤(ResistanceのRの表記あり)は、抗生剤にも比較的強く、一緒に服用しても菌が生き残りやすい特徴があります。これらの整腸剤は、抗生剤による下痢の予防や腸内環境の維持に役立ちます。
一方で、多くの乳酸菌系の整腸剤は、抗生剤に弱く、同時に飲むと菌が殺されてしまい、本来の効果が十分に発揮できないことがあります。
整腸剤は「下痢止め」ではなく、腸のバランスを整えて回復を後押しする薬です。抗生剤を使用する際には、整腸剤の種類にも気を配ると、体の負担を減らすことができます。

脱水予防が最も大事
胃腸炎の回復には、脱水をいかに防ぐかが最も重要です。下痢や嘔吐が続くと体の水分だけでなく電解質も失われるため、水だけでは不十分な場合があります。
理想的なのは OS-1 などの経口補水液で、スポーツドリンクを薄めたもの、スープ、味噌汁、ほうじ茶や白湯も有効です。逆に、コーヒーや緑茶、牛乳、そしてアルコールは胃腸に負担をかけ、脱水を悪化させるため避けましょう。
✔ 取るとよい飲み物
OS-1(最適)
スポーツドリンク(薄めて)
味噌汁・スープ
白湯・ほうじ茶
❌ 避けたい飲み物
コーヒー
緑茶
牛乳
アルコール(厳禁)
食事のとり方のポイント
食事は、消化に負担の少ないものから始めるのがコツです。おかゆ、うどん、バナナ、卵スープ、食パンなどが適しており、脂っこいもの、生もの、乳製品、繊維の多い生野菜などは、胃腸が回復するまで控えた方が安心です。
✔ OK
おかゆ
バナナ
うどん
食パン
卵スープ
❌ NG
揚げ物
生もの
乳製品
生野菜(繊維が多すぎる)
ワンポイントアドバイス
正露丸について
正露丸は日露戦争の時代、軍用の携帯下痢止めとして開発された、100年以上の歴史を持つ薬です。主成分である木クレオソートは腸の動きを強く抑えるため、急な下痢にはよく効きます。
ただし、胃腸炎が疑われるときには注意が必要です。発熱、血便、強い腹痛、食中毒の可能性がある場合には、強く腸を止めることで逆に症状を悪化させることがあります。正露丸は“昔ながらの強力な下痢止め”ですが、使うタイミングを慎重に選ぶ必要があります。
受診のタイミングと浅川クリニックでできること
水分がほとんど取れない場合や、高熱が続くとき、血便や黒い便、激しい腹痛や嘔吐が続く場合、数日経っても改善しない場合などは、自己判断で薬を続けずに受診をおすすめします。特に子どもや高齢者、腎臓病や糖尿病などの持病がある方は早めの診察が安心です。
浅川クリニックでは、血液検査、便検査、脱水の評価、腹部エコー、点滴治療、整腸剤・制吐剤の処方などが可能です。
まとめ
下痢は体の防御反応であり、むやみに止めないほうがよい場面が多くあります。ロペミンは強力な下痢止めで、自己判断では慎重に使用すべき薬ですが、脱水のリスクが高い場合には医師が適切に判断して使用することがあります。整腸剤は腸を整えて自然な回復を後押しする薬で、抗生剤との相性も大切です。
迷ったときは、浅川クリニックにご相談ください。
浅川クリニック 内科・世田谷
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